All you need is love
王宮のロンド⑳ ~強く儚い者たち~
行き倒れという冒険者としてはもっとも恥ずかしい死に様で白骨と化した俺は通りすがりの僧によって復活させられた。男はハーゴンと名乗った。徳の高い僧侶に見受けられたので、とりあえずお礼としてソープを奢ってやったら「こ、こんなのっては、はじめて、ですッ!」と絶叫する声が俺の個室まで聞こえてきました。待合室に戻ると晴れ晴れとした顔の破戒僧がこちらに激しく手を振っている。他の客が萎縮するには充分すぎるほど彼のいでたちは場違いだったが、彼は彼が純潔を捧げたボストロール似の嬢(※のちに知ったところによると彼はデブス専だった)のテクニックと具合について熱っぽく語った。それまで押し黙っていた他の客もハーゴンが初めて味わった感動についての述懐に共感を示し、次々に自らの初体験を語っていった。ハーゴンは興味深そうにそれぞれの初陣エピソードを聞いて大きく肯いた。待合室はいよいよ教会の懺悔室のような趣を帯び、新規の客と遅れて出勤してきたソープ嬢を巻き込みその場の全員が旧知の仲であるかのようなアットホームな雰囲気に包まれた。彼が道端の白骨死体にザオリクをかけなければこの瞬間は有り得なかった。もはや俺は単なるハーゴンの純朴な性格とカリスマ性について疑いを挟まない。元勇者として何の実績もなく恥の多い生涯を送ってきた自分にとって、彼に風俗を奢ったことはささやかな誇らしさをもたらしたのである。皆の話に耳を傾けながら場を眺めていた俺にハーゴンが「差し支えなければ是非貴方の体験も聞かせていただきたいものです」と話しかけてきた。彼は聞き上手で、そして俺は上機嫌だった。俺はルイーダの酒場やムショでおかまを掘られたことや自分を馬鹿にした少年にイタズラしてレベルアップしたこと、メンヘラの実妹を50%OFFで買ったことなどを臨場感タップリに笑いをまじえて語った。気がつくと周囲は静まりかえり、他の者たちが怪訝そうな目でこちらを見ている。まだ女僧侶のヒモになってアナル開発された話が残っていたが俺はそこで口を閉ざし、ハーゴンを見つめた。彼は憐れむような笑顔を浮かべて「貴方を蘇生させるべきではなかったのかもしれません」と言って祈り、おもむろにザキを唱えた。いきなりの即死呪文だったがラックの種とエビオス錠を毎日欠かさず飲んでいる俺には効くはずもなかった。俺はソープ奢ってやったのになお僧侶でいるかのようなハーゴンの態度が気に入らなかった。「てめえだってボストロールと寝た破戒僧じゃねえか!」とハーゴンを罵倒し、レベルとMPが不足したままライデインを唱えた。もちろん詠唱は無効となり雷撃は訪れなかった。ハーゴンは「貴方のレベルでは司教である私を倒すことはできません」と寂しそうに言ったが、次の瞬間ハーゴンの首がゴロリと床に落ちる。ハーゴンの背後には血まみれの黄金の爪を下げた女僧侶がいた。そう俺のライデインは攻撃のためではなく、家出した俺を探しているであろう女僧侶に自分の位置を知らせるためのものだったのだ。女僧侶は自分より遥かにレベルが高い司教を殺ったことでデスピサロとサシで戦えるほどにレベルアップした。もう誰も彼女を止めることはできない。女僧侶はハラハラと涙を流して俺に駆け寄り「心配したんだからっ!///」と抱きついた。周囲の客は俺のピンチに駆けつけた女僧侶が火事場の馬鹿力でハーゴンを討ったと誤解しているようだったが、彼女は俺の耳元で「5年くらい監禁してあげるね★」と囁いた。
Cocco / 強く儚い者たち
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